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ドライ画像形成技術

 

研究の背景

近年、医療診断の分野ではCR、CT、MRI、超音波などの画像診断が飛躍的な進歩を遂げた。こうしたデジタル画像をドクターが診断する透過フィルムに出力するのが医療画像イメージャーである。大画面かつ広い濃度領域を必要とする高精細画像を一刻も早くドクターに届ける必要のある医療画像には、銀塩写真へレーザーで書き込む方式が高いポテンシャルを有し利用されてきた。一方、現像処理廃液が出るというのが銀塩写真方式の欠点であり、環境への配慮から処理液を使わないイメージャーが望まれていた。この様な要請のもと、富士フイルムでは熱だけで現像するドライ写真技術の開発に取り組んだ。精密に多層塗布された薄膜中に30種類以上の有機化合物を含有し、熱により化学反応を起こして画像を形成させる。水性ラテックスをバインダーとすることによって、製造現場で有機溶剤をほとんど使用する必要がなくなり環境負荷を軽減させることができた。医療現場でも有機溶剤臭が無く、医療画像のネットワーク時代にふさわしいドライ画像形成技術が完成した。これらの技術を使ったドライイメージングフィルムDI-AL・DI-HLにより、第33回日化協技術賞(2001年、日本化学工業会)、第1回グリーンサスティナブルケミストリー賞(2002年、GSCN)、第52回化学技術賞(平成15年度、日本化学会)など、権威ある各賞を受賞し、環境に配慮した感光材料として高く評価されている。以下に、本技術を概説する。

ドライ画像形成技術の概要

1. ドライイメージングフィルムの構成

【図1】に層構成を示す。光センサーとなる50nm以下のナノサイズハロゲン化銀結晶、銀イオン供給体として働く脂肪酸銀塩、銀イオンの膜中での移動を可能にする銀イオン輸送剤(フタラジン誘導体)、銀イオンを現像銀に還元する熱現像剤(ビスフェノール系化合物)、未露光部での反応をラジカル反応によって抑制するかぶり防止剤(トリブロモメチル化合物)など30種類以上の多様な機能を有する有機化合物で構成される。

[図1]ドライイメージングフィルムの層構成

【図1】ドライイメージングフィルムの層構成

これらの素材を膜中に分散し保持しているのがバインダーである。熱現像の促進および現像後の画像を安定に保存するためには疎水性の膜が必須であるが、SBR-ラテックスを使用することによって疎水性膜を水系塗布で実現している。【図2】にその成膜機構を示す。

[図2]SBR-ラテックスを用いた水系塗布による疎水性膜の成膜機構

【図2】SBR-ラテックスを用いた水系塗布による疎水性膜の成膜機構

水系塗布は、環境配慮および医療現場での溶剤臭追放を実現したとともに、各種機能性有機素材を有機溶剤に溶かさないで固体分散状態で添加できるというメリットを有する。有機素材結晶の融点を化合物で設計することによって、微妙な反応制御が実現可能となった。

2. ドライイメージングフィルムの構成

【図3】に画像形成原理を示す。半導体レーザーによりスキャン露光が行われると、光センサーであるハロゲン化銀上に銀クラスター(潜像)が形成される。露光されたドライイメージングフィルムが120℃に加熱されると、この潜像が反応の活性中心となって有機銀塩から供給された銀イオンの還元反応(現像)が起こる。その後室温まで冷却され、得られた画像が安定化する。【図4】に主要素材の構造式を示した。

[図3]画像形成の原理

【図3】画像形成の原理

[図4]主要素材の構造式

【図4】主要素材の構造式

このような画像形成、反応停止、そしてその後の画像安定化をドライなフィルム中で完結させる。湿式フィルムのような定着処理がなく、現像後も反応性素材がそのまま膜中に存在するため、画像を安定的に保存するために各種の工夫が凝らされている。

3. 商品への展開 : DRYPIX-7000/DI-HLの開発

市場から要求の高い処理能力の向上(還元反応の高活性化)と処理後の画像安定化の向上は相反する性質であり、これを両立させることがドライイメージングフィルムの最大の課題であった。

  1. 錯体形成による還元剤の安定化【図5】
  2. 少量の高活性現像促進剤の開発導入【図6】
  3. 脂肪酸銀結晶の純度向上による室温での安定性向上【図7】

など新たなケミストリーの導入によってこの問題を解決した。同時に医療診断に要求される純黒調の銀色調を得るために、独自の色調調整技術を開発した。

[図5]錯体形成による還元剤の安定化

【図5】錯体形成による還元剤の安定化

[図6]現像促進剤のメカニズム

【図6】現像促進剤のメカニズム

[図7]高純度脂肪酸銀による相転移温度の高温化

【図7】高純度脂肪酸銀による相転移温度の高温化

ドライフィルムに要求される高画質、迅速性、画像安定性を高い次元で同時に実現したDRYPIX-7000/DI-HLシステム【図8】が2002年秋に発売された。ドライフィルムの利便性を有しながら、湿式フィルム同等の高画質であるとユーザーからの高い評価を得ている。

[図8]DRYPIX-7000/DI-HLシステム

【図8】DRYPIX-7000/DI-HLシステム

将来の展望

医療用イメージャーのドライ処理化の流れはほぼ確定した。その様な状況の中で、富士フイルムが開発したDRYPIX-7000/DI-HLシステムの価値は、ますます増大していると思われる。一方、機能性と利便性などの追求と同時に、環境への配慮はさらに重要である。今後、ドライ画像形成技術をさらに発展させ、環境に優しく、より取り扱いやすい商品へと展開させていきたいと考えている。

CR (Computed Radiography)

医療用X線画像をデジタルで撮影する装置。1981年にX線による励起電子を蓄積し、レーザー光により読み出す独自の技術によって富士フイルムが世界に先駆けて開発を行った。医療画像のデジタル化には欠かせない装置である。

ドライイメージングフィルム

有機銀塩を利用し、処理液が不要な乾式熱現像感光材料。1994年に3M社によって医療用に応用され、医療用ドライレーザーイメージャーが注目される端緒となった。しかし、そこには有機溶剤系が使われており、有機溶剤の回収および処理や、さらに、感材中に残留する溶剤による臭気など、多くの問題があった。

ラテックス(Latex)

ラテックスとは、もともとゴムの樹から得られる白色乳状の液状物質のことを言い(天然ラテックスと称し天然ゴムの原料)、この合成研究に基づき得られた乳化重合法により製造されたエマルジョンを総称して合成ラテックスと呼ぶ。

関連情報

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