ナノ粒子合成技術
研究の背景
ナノテクノロジーは、「物質をナノサイズでコントロールすることで、物質の機能、特性を大幅に向上させ、豊かな社会の構築に貢献するとともに、資源・エネルギーの使用を大幅に減らし、環境に優しい社会の実現に役立つものである」(経団連産業技術委員会 ナノテクが創る新産業-n-Plan2002 2002.11)とされる。経団連は、その中で、【図1】に示したように、IT、バイオ、エネルギー・環境、材料の4つをブレークスルーの視点として挙げている。さらに、【図2】に示したように、重点投資を行うべきナノテクノロジーをベースにした新産業分野を4つ挙げ、また、ニューフラグシップとして、12の産業を挙げている。この中のストレージ産業は、富士フイルムが取り組んでいる重点の1つである。
![[図1]ナノテクノロジーの応用分野](pack/images/review02_img_01.jpg)
【図1】ナノテクノロジーの応用分野
![[図2]ナノテクが創る12の産業(経団連「ナノテクが創る未来社会<n-Plan21>」)より](pack/images/review02_img_02.jpg)
【図2】ナノテクが創る12の産業(経団連「ナノテクが創る未来社会<n-Plan21>」)より
富士フイルムは1989年、カラー写真フィルムの製造で用いる「多層同時塗布技術」を応用し、磁性層を同時重層塗布するダブルコーティング技術を開発した。1992年には超薄層メタル磁性層と非磁性層を同時作製するATOMM(Advanced super Thin layer & high Output Metal Media)技術を開発した。
さらにその後、NANOCUBIC技術の開発により、ナノ領域の微細構造を持つ超薄層磁性層による高分解能・低ノイズのメディアの作製に成功。記憶容量が従来品比10倍となる1TB(テラバイト)以上の記録密度を実現させた。
以上のように富士フイルムは、記録メディアの高容量・高密度化をリードしてきた。その基盤技術の1つとしてナノ粒子合成技術がある。ナノ粒子の合成方法は、気相法や液相法などに大別でき、用途によってさまざまな手法に分類することができる。その主要な合成方法を【図3】に示す。
![[図3]無機ナノ粒子合成法の種類](pack/images/review02_img_03.gif)
【図3】無機ナノ粒子合成法の種類
以下に、富士フイルムが永年培ってきた手法のひとつである化学的液相法を例に、磁性ナノ粒子における次世代合成技術の研究について概説する。
ナノ粒子合成技術の研究概要
1. 逆ミセル法による合成方法
ミセル(正常ミセル)は一般に、界面活性剤の作用で水相中に油滴を閉じ込めた系を現す。これに対し、逆ミセルは、界面活性剤の作用で油相中に水滴を閉じ込めた系である。よく知られている逆ミセルには、低沸点である第一石油類のアルカン類を有機溶媒として、AOT(ビス(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム)を界面活性剤に用いる方法がある。
本研究では、アルカンとして比較的高沸点(174℃)で高粘である第二石油類のデカンを用い、界面活性剤として溶解度が高いAOTをそのまま用いた。
逆ミセル法によるFePt系ナノ粒子合成方法の概念図を【図4】に示す。図のように、N2ガス雰囲気中で、金属塩の逆ミセル液と還元剤の逆ミセル液を混合、反応させて金属塩を還元する方法で行った。還元反応温度は20~70℃とした。反応終了後、洗浄および精製を複数回行い、副生塩、未反応の金属イオン、AOT などを除去した上で、分散剤を添加してアルカン中に再分散した。
金属塩は錯塩を用いた。また、還元剤にはNaBH4を用いた。
![[図4]逆ミセル法によるFePt系ナノ粒子合成方法の概念図](pack/images/review02_img_04.jpg)
【図4】逆ミセル法によるFePt系ナノ粒子合成方法の概念図
2. 粒径の単分散化
粒径の単分散化は、個々のナノ粒子の保磁力を一定にし、膜にしたときの平滑性を良化させて媒体のノイズを低減するために重要である。また、単分散化によってナノ粒子が自己組織化しやすくなり、これによってノイズが低減し、より高密度の記録が可能になる。
今回用いたような還元反応が非常に速い難溶性の合金形成における単分散性の向上には、核形成を同時に起こさせるための工夫が必要であり、反応液を瞬間的に均一混合する撹拌条件が重要である。撹拌力と剪断力が大きく異なるマグネチックミキサー(500rpm)と乳化用ホモジナイザーの一種であるオムニミキサー(7,500rpm)とをFePtナノ粒子で比較した。
【図5】に示すように、マグネチックミキサーでは大きな粒子や凝集粒子が生成してC.V.(変動係数)も57.9%と大きかった。一方、オムニミキサーでは比較的揃った粒子が生成し、C.V.も22.5%と良化した。それは、オムニミキサーにより、反応液が比較的速く均一混合させたためと考えられる。
![[図5]マグネチックミキサーとオムニミキサーのFePtナノ粒子](pack/images/review02_img_05.jpg)
【図5】マグネチックミキサーとオムニミキサーのFePtナノ粒子
3. 粒子間組成均一化
今回用いた逆ミセル法による磁性ナノ粒子の合成法では、核形成時において、Fe塩はPt塩より還元されやすいため、初期の粒子にはFe含量が多く、その後の粒子成長時にPtが徐々に粒子中に取り込まれることが【図6】の組成変化から示唆される。また、FePtCuの3元素でも同様であることが【図7】から示唆される。
![[図6]粒子成長時のFePtの組成変化](pack/images/review02_img_06.jpg)
【図6】粒子成長時のFePtの組成変化
![[図7]粒子成長時のFePtCuの組成変化](pack/images/review02_img_07.jpg)
【図7】粒子成長時のFePtCuの組成変化
粒子間組成の均一化を図るために、
- 核形成時の分散剤を無くす
- 還元されたPtやCuが、核の上で成長するように、核表面の還元性状態を維持するための補助還元剤を追添加する
- PtあるいはCuとの酸化還元反応によってイオンとして残る可能性のあるFeイオンを最終的に系外に取り去るために、キレート剤を追添加する
の以上3つを行った。
上記(1)(2)(3)を実施することで、【図8】および【図9】に示すとおり、未実施に比べて粒子間組成が均一なFePtおよびFePtCuナノ粒子を得た。特に、未実施で存在するFe主成分の低コントラスト粒子が、(1)(2)(3)の実施によって消えていることを確認した。
![[図8]FePtの粒子間組成比とFePtナノ粒子のFE-TEM写真](pack/images/review02_img_08.jpg)
【図8】FePtの粒子間組成比とFePtナノ粒子のFE-TEM写真
![[図9]FePtCuの粒子間組成比とFePtCuナノ粒子のFE-TEM写真](pack/images/review02_img_09.jpg)
【図9】FePtCuの粒子間組成比とFePtCuナノ粒子のFE-TEM写真
将来の展望
富士フイルムでは、反応の精密制御を駆使した磁性ナノ粒子合成技術に関する本研究によって、次のことを達成した。
- 粒子分布および組成分布の狭い磁性ナノ粒子の開発
- 平均粒径3~9nmの範囲での、任意粒径の磁性ナノ粒子合成
- FePtCuナノ粒子と還元雰囲気(Ar+H2ガス)による変態(結晶規則化)温度の低下(500~600℃→350~375℃)
- 表面粗さ(Ra)1nm以下の平滑性を有する電磁変換特性評価可能なナノ粒子磁性媒体の作製
以上述べた本研究をさらに推し進め、今後、1Tbpsi級の超高密度記録媒体の完成に向けて、さらなる技術構築を図っていく考えである。
NANOCUBIC技術
富士フイルムが開発したナノオーダーでの薄層磁性層および磁性体の超微粒子化を塗布型媒体として実現したナノテクノロジー。高分解能、高C/Nの達成により、3Gb/in2以上の記録密度が実現でき、次世代の高容量記録システムをはじめ、幅広い分野での活用を可能にした。
逆ミセル法
界面活性剤の力を借りて油の中でわずかな水を分散させ、この水の中で化学反応を行い微粒子を作る方法。「ミセル(集合体)」とは石鹸や牛乳など分散系のコロイド粒子を指し、「逆ミセル」とは界面活性剤の疎水基が外側を向き、内側に水分を抱え込むような形で形成するコロイドのことをいう。逆ミセル法の利点には、化学反応を利用して多様な物質を作ることができる、微粒子の表面状態を変えることができる、均質のものを一度に大量に生産できるなどが挙げられる。



