分析・解析技術
開発の背景
高付加価値で高機能な新材料の開発には、分析・解析および理論計算から導かれる設計指針が不可欠である。すなわち、超微量分析、複雑な化学構造の正確な決定や、反応の動的解析ができて、はじめて合理的な化合物設計や反応制御が実現される。
また、結晶形成の緻密な制御や効率的な機能の設計にも、計算科学を含めた分析・解析技術が重要な役割を果たす。これらの解析技術開発を一手に担い、富士フイルムの多彩な固有技術を支えているのが、解析技術センターである。
解析技術センターは、最先端の分析・解析技術ならびに計算科学を駆使して機能性材料・デバイスの機能やそのメカニズムを解明し、商品開発を先導する水先案内人としての、極めて大きな使命を担っている。
以下に、当センターの特長的な要素技術である(1)分離・構造解析、(2)無機・形態解析、(3)表面・界面解析、(4)物理化学的解析、(5)計算科学について述べる。
分析・解析技術の特長
1. 分離・構造解析
解析技術センターでは、LC(Liquid Chromatography:液体クロマトグラフィー)と600メガヘルツ(MHz)-NMR(Nuclear Magnetic Resonance:核磁気共鳴分光計)をオンラインで接続し、【写真1】のように、溶離液が重溶媒でも軽溶媒でもLC-NMR測定が可能な分離・構造解析システムを構築している。
![[写真1]LCと600MHz-NMR(ドイツ製)による分離・構造解析システム](pack/images/review10_img_01.jpg)
【写真1】LCと600MHz-NMR(ドイツ製)による分離・構造解析システム
1マイクログラム(µg)の極微量でも構造を特定できる能力を有し、僅かな時間でも変質するような不安定な化合物でも高精度な構造解析を行っている。【図1】に、同LC-NMR装置によるスペクトル測定例を示す。
![[図1]LCNMRのスペクトル測定例](pack/images/review10_img_02.jpg)
【図1】LCNMRのスペクトル測定例
2. 無機・形態解析
当センターでは、【写真2】のような電界放射型銃により高輝度で高分解能を特長とするFE-TEM(Field Emission Transmission Electron Microscopy:電界放射型透過電子顕微鏡)を備え、微小無機・形態解析に用いている。
![[写真2]FE-TEM](pack/images/review10_img_03.jpg)
【写真2】FE-TEM
Fe-Pt(鉄白金)系磁性ナノ粒子の構造・組成の粒子間分布を評価した解析例を【図2】に示す。この粒子調製条件下では、鉄(Fe)と白金(Pt)が混晶を形成したナノ粒子と、Feナノ粒子が混在していることが判明し、粒子間組成が均一なFePt磁性ナノ粒子の調製条件の改良に大きな貢献を果たした。
3. 表面・界面解析
【写真3】に示すAuクラスターイオン(Au3+)ガンを装備したTOF-SIMS(Time-of-Flight Secondary Ion Mass Spectroscopy:飛行時間型二次イオン質量分析計)は、動的な有機物の表面分析に威力を発揮する。
![[写真3]TOF-SIMS(ドイツ製)](pack/images/review10_img_04.jpg)
【写真3】TOF-SIMS(ドイツ製)
50~100ナノメートル(nm)厚の有機物層が交互に積層されたフィルムを低角斜め切削し、その断面のTOF-SIMS測定を行った。その結果、【図2】に示すとおり、それぞれの層はPENとPEN-co-PETとから構成されていることを確認した。
![[図2]PET、PENのマッピング画像](pack/images/review10_img_05.jpg)
【図2】PET、PENのマッピング画像
4. 物理化学的解析
光をトリガーにしてエネルギーや電子を移動させる光機能性材料は、各種感光システムのまさにキーテクノロジーである。
反応の初期過程を直接観測し定量的な機構解析を行うために、当センターでは、大阪大学工学部の増原研究室と埼玉大学理学部の田隅研究室(現・坂本研究室)の指導の下で、【写真4】に示す、フェムト(f:10-15)秒過渡吸収・発光測定システムを(株)ユニソクと共同開発した。
![[写真4]フェムト秒レーザー装置](pack/images/review10_img_06.jpg)
【写真4】フェムト秒レーザー装置
フェムト秒レーザー装置の性能および特長は、光学系を工夫し、1mAbsの微弱な吸収変化が検出でき、遅延時間を最大10ナノ秒までとれることなどが挙げられ、色材開発や光堅牢化などの解析に大きな威力を発揮する【図3】。
![[図3]フェムト秒レーザー装置による機能性色素の過渡応答](pack/images/review10_img_07.jpg)
【図3】フェムト秒レーザー装置による機能性色素の過渡応答
5. 計算科学
分子の物性計算法である非経験的分子軌道法や密度汎関数法は、Gaussian、MOLCASやADFなどのプログラムパッケージの進展により、世界の研究機関で広く活用されている。
当センターでは、これらのプログラムを用いて電子相関を考慮することにり、NMR、ESR、IR、Raman、UV、XPSなどの計算分光スペクトルを高い精度で得ることを可能にしている。
【図4】に、実測と計算によるプラスチック光ファイバー材料の吸収スペクトル結果を示す。プラスチック光ファイバー用に検討された材料の近赤外域のCH4倍音と結合音の計算値は実測と良く対応し、今日では、計算科学は光学損失の低い材料開発に不可欠な手法となっている。
![[図4]プラスチック光ファイバー材料の吸収スペクトル](pack/images/review10_img_08.jpg)
【図4】プラスチック光ファイバー材料の吸収スペクトル
将来の展望
解析技術センターは、商品開発部門および要素部門と協働して、商品化のための分析・解析技術および計算科学を一手に担い、富士フイルムのまさに基幹技術を支えている。
当センターが特化する原子レベルの解析技術、いわゆるナノテクノロジーを武器に、ナノサイズの粒子やナノレベルの超薄膜など、世の中にない画期的な新規機能性材料の創成をめざすとともに、研究開発を通して経営に貢献する解析技術の確立に努めている。
LC(Liquid Chromatography)
液体クロマトグラフィー(Liquid Chromatography)の略称で、NPLC(順相クロマトグラフィ)やRPLC(逆相クロマトグラフィ)がある。NPLCでは、シリカゲルが固定相としてよく使われ、移動相としては一般に無極性のn-ヘキサンなどが用いられる。一方RPLCでは、シリカゲルにC18(オクタデシル基)などを結合させた化学結合充填剤(ODSなど)を用い、移動相には極性の水、アセトニトリルなどが用いられる。
NMR(Nuclear Magnetic Resonance)
核磁気共鳴分光(Nuclear Magnetic Resonance)の略称で、有機化合物の同定や構造解析のために必須の方法のひとつ。磁場の中に置かれた試料に含まれる元素の原子核スピンと磁気モーメントのエネルギー準位によって共鳴吸収し、核のまわりの電子密度や分布状態に関する情報が得られる。
FE-TEM(Field Emission Transmission Electron Microscopy)
電界放射型電子銃を搭載した高分解能分析電子顕微鏡。電界放射型電子銃は従来の電子顕微鏡で広く使われてきた熱電子放出型電子銃に比べ輝度が約100倍高く、さらに光源サイズが非常に小さいので電子ビームを小さく絞ることができる。





