物理化学解析と計算科学
開発の背景
機能材料の開発において、その機能を発現させる原理となる物理・化学的なメカニズムを解明し、より高機能な材料設計につなげていくことが、効率良い材料開発に不可欠である。当社で扱う有機低分子、ポリマーや無機材料などのさまざまな機能材料に対して、分子配列・配向構造などの固体構造、電子物性や力学物性などの物性、そして光反応ダイナミクスなどの反応というように、実験と理論計算の両面からメカニズムの本質に迫っている。
物理化学解析と計算科学の特長
例えば、光電変換デバイスや光記録材料などの光機能性材料では、電子、正孔あるいはフォトンとの相互作用と、その結果として生じる励起種からの化学反応を高効率化することが機能向上への鍵となる。従って解析のポイントは、材料中で機能を発現する部位の構造を特定することと、極短寿命な光(電子)励起種の構造や反応性を解明することである。
我々は、極短パルスレーザーを用いたフェムト秒時間分解分光装置(写真1)を大阪大、埼玉大と協働で開発し、機能材料中の光励起種の解析に活用している。図1は、DVD-R色素薄膜の過渡応答スペクトルで、色素の励起一重項状態の失活と同じ時定数(4ps)で、薄膜中に添加されているビオロゲン一電子還元体の生成が観測された[1]。これにより、色素の光堅牢性改良を目的に添加したビオロゲンの作用メカニズムが明確になった。
![[写真1]フェムト秒時間分解分光装置](pack/images/review11_img_01.jpg)
【写真1】フェムト秒時間分解分光装置
![[図1]ビオロゲン一電子還元体の過渡応答](pack/images/review11_img_02.gif)
【図1】ビオロゲン一電子還元体の過渡応答
我々はまた、励起種の構造とその反応性を解明するために、量子化学計算を活用している。時間依存密度汎関数法を用いて、DVD-R色素などの最も基本的な構造である、trans-スチルベン(tSB)の励起一重項状態(S1)の安定構造が推算できるようになった。このtSBのS1ポテンシャル面の二次微係数から求められる計算振動数は、実験的に報告されているS1の過渡ラマンや過渡赤外吸収スペクトルと良い一致が見られ[2]、光異性化反応経路の特定とその反応性に関する理解が進んだ。
これら実験と計算を相補的に活用することによって励起種の構造と反応性を解明し、より高機能な材料設計に貢献している。
参考文献
- [1] 田邊 守、横山 裕、宮下 陽介、2008年光化学討論会講演予稿集、2B04.
- [2] K. Tsumura, K. Furuya, A. Sakamoto, and M. Tasumi, J. Raman Spectrosc.(Hiro-o Hamaguchi festschrift), in press



