今、若者たちへ —君に伝えたい私の経験—
2007年12月5日付「日本経済新聞 朝刊」の広告企画「今、若者たちへ」に掲載されたメッセージをご紹介いたします。

仕事の成果は人間力の総和 戦う気概持ち 前向きな考えで挑戦
写真の印象のとおり、豪快や豪胆という言葉がよく似合う。富士フイルムホールディングスの古森重隆社長は5歳の幼心に芽生えた「負けじ魂」に火をともし、学生時代からずっと“戦い”続けてきた。それが表情に刻まれている。だが「ビジネスにおける戦いとは基本的に楽しいもの」。世の中には明るく、楽しく、やりがいのあることがたくさん待っている。そう呼びかけて、若者に積極的な“社会進出”を誘う。
入社3年目の試練 正念場と向き合う
1939年に生まれ、おやじの仕事の都合で旧満州(現中国東北部)に渡り、五歳の時、奉天(現瀋陽)で終戦を迎えた。子供ながら、国と国の力の激突と勝敗を決した、まさにその現場にいた。力がないとどれだけ悲惨な目に遭うかを目前に見てショックを受けました。自分で実力を養おう。そう心に決めた原点です。
そんなことで、子供の時から運動はよくやった。チャンバラごっこに始まり、小学校から水泳、陸上、野球、テニス、柔道、大学ではアメフトと。学校の勉強よりは本を読むのが好きで、高校のころ世界文学全集をほぼ読み終えました。大学では哲学書を読みふけり、ニーチェの超人思想に魅入られていた。
こうした経験から、学生時代には長い人生に備えて頭と体を鍛えることを勧めます。それを意識してやってほしい。
就職で富士フイルムを選んだのは、社員を大事にする会社だったから。待遇も良いと聞いていました。そして、それよりも若い人に大きな仕事を任せ、伸び伸びやらせていると聞いたからです。面接担当者とも妙に波長が合い、その日のうちに決めました。入社後は経営企画部に配属されたが、計算機片手のデスクワークがどうにも物足りない。営業をやらせてほしいと直訴すると、産業材料部という新しい職場に回してくれました。その中でも偏光板用フィルムなどこれから新しい市場を作ろうという諸製品のチームで、僕の当時の気持ちにピッタリでしたが、不況で販売が落ち込み、ついに生産中止も検討される事態になりました。
当時入社3年目。新規開拓すべく工場の製造課長さんと一緒にお客さんを回りました。そのまま夜中まで対策を議論し、会社のソファで寝ることも。
このとき心にあったのは、事業を存続させたい気持ちと「これは自分にとって試練だな。ここで頑張らなければ、この会社でやっていくことはできないだろう」という思い。仕事をしていく中で、こういう正念場は必ず訪れます。その時は、前途が開けることを信じて必死に頑張るしかない。
実際、この時もあきらめなかったからこそ、今日収益の柱に成長しているフラットパネルディスプレー材料事業がある。個人としての経験もさることながら、会社の役に立てたことが何よりうれしいと思っています。
個人の力増幅する 可能性に満ちた器
今の若い人たちは非常に礼儀正しくいい子だが、それだけでは勝ち抜いていけない。もっとハングリーな気持ちでやらないと伸びないし、何事にもゴツゴツ向かっていく気迫がほしい。何事においても戦う気概が必要です。
さらに言えば、仕事の成果はその人五体全部の人間力の総和なんです。
私は「五体」ということをよく言います。目でしっかりものを見る、それから耳で聞く。見て聞いても分からないことは鼻で嗅(か)げと。さらには肌で感じろと。それで情報の本質をつかむ。その情報を基に頭で戦略・戦術を考える。ハートも大切です。人柄の良さとか、相手を思いやる心が人間的な共感につながります。それだけでも十分じゃない。腹も要る。腹ってなんだというと、度胸とかガッツとか根性、これが必要。後は足腰も必要。自分で現場に行く現地現場主義の行動力が大切です。それからいざという時は強引にやり抜く腕力も要ります。それから自分の意見をきちんと言える口・コミュニケーション能力も大事です。
結局、それらの総和というものがその人の仕事の成果に結びつきます。経験や仕事に学んで、それが仕事に生きる。その仕事の成果がまた人間としての成長につながる。そうしたポジティブなスパイラルに入ることで、どんどん成長していきます。人生、前向きに考えることが大切です。「戦う」といっても人ばかりが相手でなく、困難や壁、そういうものと戦う覚悟が必要なのです。僕はいま六十八歳。まだまだ元気だと言われますが、それは何事も前向きに考えるからでしょう。だから疲れないし、めげない。
やっぱり人生は素晴らしいですよ。希望に満ちて社会に出て来てほしい。明るく、楽しく、やりがいのあることが待っています。会社は一人の力を何倍にも増幅して発揮できる、たくさんの可能性が詰まった器、素晴らしい組織です。勇んで入ってきてください。