ニュースリリース
染色体検査用DNAアレイ(*1)の臨床応用に世界で初めて成功!
先天異常症候群解析用DNAアレイ「GD-700」
染色体の微細な違いを高精度かつ簡便に検出
新発売
2009年9月28日
富士フイルム株式会社
富士フイルム株式会社(社長:古森 重隆)は、微細な染色体の異常を高精度かつ簡便に検出できる、先天異常症候群解析用DNAアレイ(*1)「GD-700」を開発しました。「GD-700」は染色体検査に使用されるDNAアレイとして世界で初めて臨床応用されるもので、本年10月上旬より国内販売を開始いたします。
富士フイルムはこれまで、東京医科歯科大学と共同で「アレイCGH法(*2)」を用いたDNAアレイ実用化のために関連技術の開発を進めてきました。「GD-700」は、同大学との共同研究、ならびに独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の健康安心イノベーションプログラム「染色体解析技術開発」プロジェクトの成果の第一弾として商品化したものです。
「GD-700」は、染色体の中で、先天異常症候群に関連する遺伝子の異常が報告されている領域(*3)の「BAC DNA(*4)」を選択し、ガラス基板上に滴下し固着させることにより、微細な染色体異常を正確に検出することを可能にしました。
これまで、スライドガラスに「BAC DNA」を固着させたDNAアレイは、網羅的な染色体解析(*5)を目的として研究用途に販売されてきましたが、臨床応用には至っていませんでした。今回、東京医科歯科大学およびNEDOとのプロジェクトにより、先天異常症候群に対し、豊富な症例に基づき関連が裏付けられたDNAを厳選することにより、簡便で実用的な診断用DNAアレイを作り上げました。
現在、先天異常症候群検査は、染色体の形態を直接顕微鏡で観察する分染法(*6)で実施されていますが、細胞の培養、標本作製、観察、診断確定まで、一週間程度の熟練作業を要し、判定できる先天異常症も10種類程度と限定されています。
今回開発した「GD-700」は、染色体の一部が欠失するなどの微細な染色体異常も含め、既知の先天異常症31種類を、48時間以内に高精度に検出することを可能としました。「GD-700」は、富士フイルムが写真分野で培った品質管理、解析技術により、固着されるDNA量を厳密に制御管理することで高品質なDNAアレイの量産を可能としたことに加え、東京医科歯科大学 難治疾患研究所(稲澤 譲治研究室)と共同開発した「Dualハイブリ法(*7)」と組み合わせて使用することにより、精度の高い検査が可能となりました(技術資料参照)。今後もアレイCGH法関連の技術開発を進めるとともに、がん診断などへの応用展開を目指します。
富士フイルムは今後も高い技術力と豊富な経験を生かし、先進独自の技術をもって人々のクォリティ オブ ライフのさらなる向上につなげるための最適なソリューションを、ご提供していきます。
*1 DNAアレイ : 一般的に、ガラスやシリコン製の小固体基板上にDNAを高密度に配列し固定化したもの。近年では、細胞内に存在するDNA、RNAなどの遺伝子情報の網羅的解析に用いられている。
*2 アレイCGH法 : アレイ Comparative Genomic Hybridization法(アレイ比較ゲノムハイブリダイゼーション法)の略。テストDNAとコントロール(対照)DNAをそれぞれ異なる色素で標識した後に、DNAアレイ上に固定化されたDNA断片に対してハイブリダイズを行い、蛍光強度を比較することでテストDNAに生じている増幅・欠失などの量的な変化を検出する方法。(ハイブリダイズ:1本鎖の核酸(DNAまたはRNA)が相補的なそれぞれの塩基同士(例えばアデニンとチミン、シトシンとグアニン)で水素結合を形成し2本鎖核酸を形成すること。)
*3 ヒトには約30億塩基対のDNAが23対(46本)の染色体に分かれて存在する。先天異常症候群の症例では、このうち数十万塩基対以上に及ぶ連続した染色体の領域が増幅・欠失していると報告されている。
*4 BAC DNA : バクテリア人工染色体(Bacterial artificial chromosome)の略。ヒト由来などの約10万塩基対~25万塩基対の大きいサイズのDNA断片を大腸菌内で安定的に保持できるように遺伝子組換えをおこなったDNA。近年では、ヒトゲノムプロジェクトにおける塩基配列決定の材料に使用されていた。
*5 網羅的な染色体解析 : 染色体の全領域に渡ってDNAを一定の間隔で均等に配列したアレイを用いることにより、すべての染色体異常を同時に検出するもの。未知の異常や疾患の原因を見つける場合などに用いられる。
*6 分染法 : 染色体を特定の溶液で染色した際に生じる縞模様(バンドパターン)から、個々の染色体構造を識別する方法。
*7 Dualハイブリ法 : テストDNAとコントロール(対照)DNAを同一の色素で標識した後に、それぞれのDNAを別々のDNAアレイ上に固定化されたDNA断片に対してハイブリダイズを行い、蛍光強度を比較することでテストDNAに生じている増幅・欠失などの量的な変化を検出する方法。
<技術資料>
資料1 「GD-700」と「Dualハイブリ法」の組み合わせによる検査の仕組み
GD-700とDualハイブリ法の組み合わせによる検査の仕組みを下図に示す。Dualハイブリ法は、テストサンプルおよびリファレンスサンプルとともに蛍光標識した内部標準(*8)をDNAアレイにハイブリダイゼーションする新しいアレイCGH法。内部標準の蛍光値の値を用いて標識検体(*9)の蛍光値を補正することにより、テストとリファレンスを別々の場所でハイブリダイゼーションするためアレイ上に固着されたDNA量の影響を受けやすくデータがばらつくという問題点を解決することが可能となっている。
![[図]「GD-700」と「Dualハイブリ法」の組み合わせによる検査の仕組み](pack/images/articleImg/articleffnr0323_img_01.gif)
*8 内部標準 : スポット間のDNA量差による影響を補正するために用いるDNA
*9 標識検体 : 蛍光分子で標識した検体(テスト、リファレンス)
資料2 「GD-700の解析対象」
GD-700では、微細欠失症候群、微細重複症候群31種類(代表例を下表に示す)、サブテロメア(*10)領域41か所、ペリセントロメア(*11)領域42か所のプローブが搭載されており、これらの領域を一度に解析することが可能になっている。
【GD-700の解析対象の微細欠失、重複症候群リスト】
| OMIM | 症候群 | 遺伝子 | 欠失/重複 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| #235730 | Mowat-Wilson 症候群 | ZFHX1B | 2q22.3変異(欠失) | |
| #117550 | Sotos 症候群 | NSD1 | 5q35欠失 | 5q35重複症候群 |
| #101400 | Saethre-Chotzen 症候群 | TWIST1 | 7p21.1欠失 | |
| #194050 | Williams 症候群 | ELN | 7q11.23欠失 | #609757 7q11.2重複症候群 |
| #194072 | WAGR 症候群 | WT1, PAX6 | 11p13欠失 | |
| #105830 | Angelman 症候群 | UBE3A | 15q11-q13欠失 | |
| #182290 | Smith-Magenis 症候群 | RAI1 | 17p11.2欠失 | #610883 Potocki-Lupski症候群 |
| #190685 | Down 症候群 | Multiple | 21q22 重複 |

*10 サブテロメア : 染色体末端のテロメア領域の内側に存在する領域。
*11 ペリセントロメア : 染色体の短碗と長碗の間に位置するセントロメア領域の外側に存在する領域。
資料3 アレイCGH法の原理
アレイCGH法の原理を下表に示す。アレイCGH法は、DNAアレイを利用してComparative Genomic Hybridization(CGH)法を行うものであり、DNAの欠失、増幅などの染色体異常を検出することに優れている。蛍光分子で標識したテストサンプルおよびリファレンスサンプルをそれぞれDNAアレイにハイブリダイゼーションする。その後、アレイにハイブリダイゼーションしたDNAの蛍光値を測定し、テストサンプルとリファレンスサンプルの蛍光値の比(テスト/リファレンス)を算出することによってDNAの欠失、増幅を検出することができる。
| 【図1:アレイCGH法の説明】 |
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![[図]アレイCGH法の説明](pack/images/articleImg/articleffnr0323_img_03.gif)