| 隅々まで見て欲しい、きっとそのたびに発見がある
たとえば布のゆるやかな皺が落とす薄い影が、金糸で刺繍された王子像の輝きを際だたせる。その瞳の奥に、小さくだが確かな光が宿っていたりする。読者はまるで宝探しをするように、この絵本を何度でも楽しめる仕組みになっている。
オスカー・ワイルドの『幸せな王子』。説明など不要なほど有名な童話が、新たな魅力を放つ一冊の絵本となった。金原瑞人さんによる新訳、清川あさみさんがテキスタイルアートで“絵”を担当、その清川さんの作品を撮影したのが、写真家・今井智己さん。
「まずは清川さんの作品の持つ雰囲気を壊さないように、それだけでしたね。かといってただの作品図版みたいになってもいけないし。清川さんの作品は布であり、糸であり、柔らかくて形もどんなふうにも変わる。糸一本にしても、ささやかな、でも確かな立体感があるんです。そういった自由な質感、存在感を見る人が感じられるようにしたかったです」
重ねて縫い込まれた布やレースの厚みや手触り、色とりどりの糸の一本一本を表現するために、今井さんが選んだ方法は「自然光で撮影する」というもの。作品を携えて三浦海岸に赴いての撮影。今井さんが撮った作品の写真には、微細な光の加減や、木漏れ日を活かした陰影などが見事に作品と調和して溶け込んでいる。
「たとえばペインティング作品であるなら、スタジオでフラットに光をあてて撮ったかもしれないけど、清川さんの作品には太陽光みたいな、“予測のできない”光のほうがしっくりくると思って、ほとんどの作品を外で撮影しました。作品を一定期間預からせてもらったので、実際に手にとって触れながら、どう撮ればいいかをゆっくり考えることができたのも良かったです。裏から見ても別の世界があって面白いなと、裏地も撮ったり」
「布の裁断や糸の処理にしても、敢えて綺麗に作り込んでいない部分が、逆に作品の雰囲気や表情になっているので、そういった部分も伝わるように撮ったつもりです。だからすみからすみまで、いろんなところを見てもらえると嬉しいです、そのたびにきっと発見があると思うんです」
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