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撮りたいのは、目に見えない何かがある場所

 石川さんの旅の記録は、リアルタイムにホームページで報告されるほかに、いくつかの書籍でもたどることができる。また、カヌーを使った伝統航海術は、数年前から世界各地での取材を重ね、執筆を続けている。

 「文章での記録も大切にしていますが、やはり伝わらない部分がたくさんあって。写真のいちばんの強さは、『記録』だと思うんです。芸術的表現のために撮る人もいるだろうけど、ぼくはそういうことを取り払って、記録することをまず大切にしたい。そこから写真の強さが生まれてくると思うんです。

 歴史や文化が重層的に積み上げられている土地や、何十年何百年にもわたって人の思いが染み込んだ聖地などに興味があります。中でもぼくが撮りたいと思うのは、目立ったランドマークは何もないのに、その空間を通じて、どこか別の場所と繋がっているような、エアポケットみたいな場所。
 最近通っているのは、ニュージーランドの森です。先住民のマオリたちが遠い島から海を渡って来るのに使ったカヌーは、この森から生まれていて、今でも大切な聖地のひとつです。森がなくなったら、マオリとしてのアイデンティティも失われてしまう。ほかの人にとってはなんの意味もなさない場所でも、ある人々にとっては特別な意味をもつ場所などに、とてもひかれるんです。

 もとはといえば、伝統航海術の中でカヌーのことを調べいるうち、ニュージーランドの森にゆきあたって、見に行くようになって。海も森もぼくにとって境界はなく、行きたい場所、自分の眼で見てみたいところが、撮りたい場所なんです。だから、旅先で撮りたいと思ったときに素直に反応して、シャッターを押す。それでいいんじゃないかと思います。細工をしていい写真を撮ろうとか、何かを表現しようとかじゃなくて」

 そのニュージーランドの写真には、『The Void』というタイトルをつけた。Voidには「空間」「空白」「無限」などの意味があり、空っぽだけど何かによって満たされているイメージを想像させる。
 私たちが写真を見たとき、やがて頭の中で旅をすることができるようになるかもしれない。さらに好奇心や自然への敬意につながり、そこにあるもっと違う景色も見たくなる。
 旅する人の写真は、実際の旅と同じような収穫を私たちにもたらし、ここではないどこか、あるいはどこでもない"今ここ"を意識させてくれる。


<プロフィール>
石川直樹/1977年生まれ。
高校でのインド放浪に始まり、北極から南極までの人力縦断、世界7大陸最高峰の登頂(当時世界最年少)、また近代計器を使わずに海を渡る伝統航海術をミクロネシアで学ぶなど、行動範囲は世界中におよぶ。今年1月には熱気球による太平洋横断に挑戦した。写真集に『極圏を繋ぐ風』(中央公論新社)、主な展覧会に『forcircumpolar stars』(新宿・エプサイト)、『on the edge of nowhere』(ウィーン・kuspace)。写真展などの情報は、ホームページ<http://www.straightree.com/>

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ニュージーランド(2004年)
/Naoki Ishikawa
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ニュージーランド(2004年)
/Naoki Ishikawa
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『大地という名の食卓』(数研出版)/インド、ネパール、アラスカなどの写真から、食にまつわる記録を中心に収録。
 
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